省察的実践 (しょうさつてきじっせん)
省察的実践(Reflective Practice)とは、哲学者ドナルド・ショーンが1983年の著書で示した考え方で、仕事の最中に状況と対話しながら自分の判断を組み立て直していく実践のあり方。仕事を終えたあとのふりかえりと対にして語られることも多い。「反省的実践」とも訳される。省察の意味、行為の中の省察と行為についての省察、技術的合理性との違い、職場での回し方を解説します。
省察的実践とは
省察的実践(Reflective Practice)とは、仕事の最中や仕事を終えたあとに、自分が何を手がかりにどう判断したかを立ち止まって考え、次の判断を組み立て直していく実践のあり方を指す。提唱したのは、マサチューセッツ工科大学(MIT)で都市計画と教育を講じた哲学者ドナルド・A・ショーン(1930〜1997)で、1983年の著書『The Reflective Practitioner: How Professionals Think in Action』で体系的に論じた。
日本語では「反省的実践」と「省察的実践」の二つの訳語が使われている。2001年の部分訳(佐藤学・秋田喜代美訳『専門家の知恵』)が「反省的実践家」を、2007年の全訳(柳沢昌一・三輪建二監訳『省察的実践とは何か』)が「省察的実践」を採ったことによる違いで、指している中身は同じである。この考え方を体現する専門家の姿については、省察的実践家の項で扱っている。
「省察」の読み方と意味
省察は「しょうさつ」と読み、自分のしたことや考えたことを省みて、よく考えることを意味する。日常語の「反省」が、うまくいかなかった点を悔いて改めるという響きを持ちやすいのに対し、ショーンのいう省察は、うまくいった場面も含めて「自分はなぜそう判断したのか」を問い直す営みで、責める・責められるとは別のものである。
行為の中の省察と、行為についての省察
ショーンの議論の中心にあるのは「行為の中の省察(reflection-in-action)」である。熟練した実践家は、想定と違う反応が返ってきたとき、手を止めずにその場で状況を読み替え、やり方を変えている。商談で相手の表情が曇った瞬間に説明の順番を入れ替える、といった判断がそれにあたる。
これと対にして語られることが多いのが「行為についての省察(reflection-on-action)」で、仕事を終えたあとに、あの場面で何が起きていたのか、自分は何を手がかりに判断したのかを言葉にしてみることを指す。毎日のふりかえりの習慣は、主にこちらにあたる。行為の中の省察は本人にも自覚しにくいが、行為についての省察を重ねると、その場で働いていた判断の手がかりが言葉になり、次の現場で意識して使えるものになる。
技術的合理性との違い
ショーンがこの考え方を打ち出したのは、専門職の仕事を「科学的に確かめられた理論や技術を、目の前の問題に正しく当てはめること」と捉える見方、すなわち技術的合理性(Technical Rationality)への批判としてだった。現実の現場では、何が問題なのかそのものがはっきりしないことが多い。ショーンは、優れた実践家はまず状況に枠をはめて問題を設定し、試しながらその枠を組み替えていると描いた。手順書や研修で得た知識がそのままでは通用しない場面で効いてくるのが、この省察の働きである。
職場で省察的実践を回すには
研修で省察的実践の考え方を知っても、職場でそれが続くとは限らない。省察は、終わった直後の記憶がまだ新しいうちに、短くても毎日言葉にしてみることで習慣になる。そのため人材育成の場面では、研修の場で一度ふりかえることよりも、研修後の数週間に、本人が自分の仕事について書く時間と、それを促す問いが日常に置かれているかどうかが分かれ目になる。研修で扱った考え方が職場で使われ続けるかを左右する条件は、コラム「研修が定着しない理由」で、研修転移の研究をもとに整理している。
ビジネスStockrと省察的実践
ビジネスStockrは、行為についての省察を毎日の短い記録として続けるためのサービスです。記録のあとにAIが問いを返し、本人が自分の判断を言葉にするのを手伝います。書いた中身は本人だけのもので、会社に見えるのは記録が続いているか、週に何回書いたかといった利用状況だけです。中身を評価に使われないから、うまくいかなかった日のことも正直に書ける。それが省察を続けるための前提になります。
参考文献
- Donald A. Schön, The Reflective Practitioner: How Professionals Think in Action, Basic Books, 1983. 邦訳は、部分訳がドナルド・ショーン著、佐藤学・秋田喜代美訳『専門家の知恵——反省的実践家は行為しながら考える』ゆみる出版(2001年)、全訳がドナルド・A・ショーン著、柳沢昌一・三輪建二監訳『省察的実践とは何か——プロフェッショナルの行為と思考』鳳書房(2007年)。訳書の関係は柳沢昌一「省察的実践と組織学習」『教師教育研究』Vol.6(福井大学、2013年)による(2026年10月確認)。
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