研修計画の立て方は、研修の一覧表から始めない
来年度の研修計画をつくるとき、最初に開くのは今年度の研修一覧ではないでしょうか。研修名、対象、日程、講師、費用。前年の表を写して、評判の悪かったものを差し替え、新しいテーマを一つ足す。表としては整いますが、この表には、その研修の後に職場で何が起きればよいかを書く欄がありません。
計画そのものが文書になっていない会社も少なくありません。厚生労働省が2026年7月31日に公表した令和7年度「能力開発基本調査」では、事業内職業能力開発計画を「すべての事業所において作成している」企業は14.6%、「一部の事業所においては作成している」企業は5.6%で、「いずれの事業所においても作成していない」企業が79.8%でした。すべての事業所で作成している企業は、1,000人以上の企業でも29.9%です。
同じ調査で、能力開発や人材育成に何らかの問題があるとした事業所は80.1%でした。内訳(複数回答)は、指導する人材が不足している59.5%、人材を育成しても辞めてしまう51.6%、人材育成を行う時間がない45.5%と続きます。悩みの上位は、研修の数や中身ではなく、教える人と時間、そして人が残るかどうかです。研修の本数を増やす計画では、この悩みには届きません。
法律が求める計画は「段階的かつ体系的に」
事業内職業能力開発計画は、職業能力開発促進法に根拠があります。第11条は、事業主に対し、雇用する労働者の職業能力の開発と向上が「段階的かつ体系的に」行われることを促進するため、計画を作成するよう努めることを求めています。計画をつくったら労働者に周知し、第12条で選任に努めるとされる職業能力開発推進者を活用して、円滑な実施に努めることも定められています。
段階的かつ体系的に、という言い方は、計画を一年分の研修の並びとしてではなく、社員が仕事の節目を順に越えていく道筋として描くことを求めていると読めます。2年目、昇格の前後、専門職か管理職かを選ぶ時期、異動や復職。来年度の計画は、その道筋のうち、今年どこに手を入れるかを決める作業です。
職場で変わってほしい行動から逆算する
計画の一行目に書くのは研修名ではなく、その研修の後に職場で何が変わればよいかです。研修の効果を4つのレベルで捉えるカークパトリックモデルでいえば、レベル4の結果とレベル3の行動を先に決め、研修はそこから逆算して選びます。Kirkpatrick Partnersは、2024年8月のブログ記事で、研修を始める前に達成したい事業上の成果を特定し、レベル4を研修の出発点に置くよう説いています。
たとえば新任管理職の研修なら、「着任から3か月のあいだ、部下全員と月に一度の1on1を続け、その時間の半分以上を部下が話している」のように、見て確かめられる行動で書きます。ここまで書けると、研修の中身だけでなく、研修の後に何を用意すればその行動が続くかが、自然に計画の話題になります。評価のレベルの整理と、満足度アンケートだけで終わらせないための考え方は、用語集のカークパトリックモデルにまとめています。
計画表に「研修の後」の欄をつくる
研修の日は年に数日しかありません。行動が続くかどうかは、残りの日々で決まります。だから計画表には、研修名と日程の横に「研修の後」の欄を設け、三つのことを書き込みます。
一つめは、使う場面です。受講者が職場に戻ってから二週間のうちに、どの会議や面談で何を試すのか。研修の前に本人と上司で一つ決めておくことを、計画の段階で約束事にします。二つめは、上司の関わりです。いつの1on1で、上司が「研修のあと、試してみたことはある?」とたずねるのか。月と回数まで書いておけば、上司向けの説明会が要るかどうかも計画の中で判断できます。三つめは、続いているかの確かめ方です。研修直後のアンケートとは別に、研修から何か月後に、何を見て確かめるのか。
Kirkpatrick Partnersは同じ記事で、レベル3の行動の変化には、職場で新しい行動を実際に使えるよう支える仕組み(required drivers)が欠かせないと述べています。計画表の「研修の後」の欄は、この仕組みを研修と同じ重さで予算と時間の行に載せるためのものです。人材育成を行う時間がないという悩みが45.5%にのぼる以上、この欄に書く仕組みは、新しい会議を増やすのでなく、すでにある1on1や面談に一問を足す程度の軽さで設計するのが現実的です。
来年度の計画を固める前に、確かめておきたいこと
計画を上に出す前に、次の問いを自分たちに向けてみてください。この研修の後、職場で変わってほしい行動を一文で言えるか。その行動を、研修から何か月後に、誰が、何を見て確かめるのか。そのために上司に頼むことは、上司の今の時間の中に収まるか。三つに答えられない研修は、中身がどれほど良くても、翌年の計画で同じ表に同じ形で戻ってきます。
確かめ方を決めるときに気をつけたいのは、続いているかを見る仕組みが、本人の中身をのぞく仕組みにならないことです。研修で扱った視点を使った場面や、うまくいかなかった試みは、評価に使われると分かった時点で書かれなくなります。中身は本人のもの、会社が見るのは続いているかどうか、と線を引いておくほうが、結果としてレベル3の手がかりは多く残ります。
ビジネスStockrが計画の中で担うこと
ビジネスStockrは、研修の後の日々を短い記録で支えるサービスです。本人が仕事の場面を書くと、AIが問いを返し、自分の判断を言葉にするのを手伝います。書いた中身は本人だけのもので、会社に見えるのは、記録が続いているか、週に何回書いたかといった利用状況だけです。計画表の「研修の後」の欄のうち、続いているかの確かめ方を、中身に立ち入らずに置くことができます。本人が選んだ一場面は、上司との1on1で話す材料になります。
参考文献
- 厚生労働省「令和7年度『能力開発基本調査』の結果を公表します」2026年7月31日公表(調査結果の概要 p.8〜p.9 事業内職業能力開発計画の作成状況、p.24 人材育成について)。https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/newpage_00233.html
- 職業能力開発促進法(昭和44年法律第64号)第11条・第12条。e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/344AC0000000064
- Kali Alexandria, “Are You Doing Kirkpatrick® Right? Insights from Kirkpatrick Partners,” Kirkpatrick Partners, 2024年8月5日。https://www.kirkpatrickpartners.com/blog/are-you-doing-kirkpatrick-right-insights-from-kirkpatrick-partners/
(2026年11月確認)
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